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Day-56 本レビュー: 『Learn or Die』

自分が読者の対象ではなかった可能性が濃厚で、微妙な内容だと感じてしまいました。 一応、自分と似たような人 (AI系のノウハウを知りたい、などの方) のためにもレビューとして書き残しておきます。 読んだ方の目的やスキルにより、受け取り方が異なるかもしれないので、この人はこう感じたんだ…程度のレビューだと思って頂ければ幸いです。

前提として、PFN に所属している方々は皆圧倒的に優秀であり、自分なんかが評価していいものではないのは理解しています。 あくまで、PFN やその技術、技術者とは切り離し、「本の内容」のみにフォーカスし、レビューしていきます。このレビューは書いていて本当に辛い。

そして、一番大事なことを先に書いておくと (これは最後の方に行くまで読み違えていたのですが)、これは 技術の本ではなく、ほぼ経営の本だと思います

そして、この本に技術的な価値はほとんど無く、この本の対象者はおそらく、PFN に就職を考えている学生か、PFN のファンだと思います。 (人工知能について知りたい方は、だいぶ昔の本ですが、松尾豊先生の『人工知能は人間を超えるか』(2017) が数式をほとんど使わず、文章でわかりやすく人工知能の基礎技術を解説してくれているので、こちらをオススメしたいです。)

合計を10とすると、内容のバランスの印象は、技術が 3経営が 3著者の想像や自己語りが 4 くらいの割合だったかと思います。

さて、技術的な価値がなぜ無いか、というのは、この本の内容の技術的な割合が薄いということもあるのですが、最も重視したのは 本の全章に渡り技術的なエビデンスがなく、引用が一つもないことです。(一応自社ブログのURLや自社製品の YouTubeデモの QRコードは載っている)

経営の要素に関しては、自分の経営的知識が無いので評価できません。 また、著者のファンではなく、価値観が違いすぎたので、こちらも評価できません。

別の面では、この本の "書き方" 的な部分は普通に悪いと思っています。 これは、パラグラフ内で言っていることが二転三転し、途中で著者の感想や経験、事実が入り組んでいるため、その見出しの中で伝えたいことが色々あるんでしょうが、本質が何かつかみにくいです。

修正してほしい部分三点

一点目、"今も「Cat Paper」と呼ばれている有名な「猫」の論文を発表した。YouTube の動画をもとに切り出した画像1000枚から、3日間かけて自己教示学習を行い、人が教えることなく猫がどういうものかを認識できるようになったという内容だった。" (p81 より引用)

これは、Google が 2012年の ICMLに通した論文『Building High-level Features Using Large Scale Unsupervised Learning』(Le et al., 2012) のことだと思いますが、これは一番最初に読んだ論文なので思い入れがあります。

忘れてしまった部分も多いのですが、ネット上に "猫がどういうものかを認識できるようになった" というミスリーディングが多く転がっていて、論文自体の解釈に支障をきたしたので、こういうのは本当にやめてほしいです。

今ざっくり読み返しているのですが、この論文は、オートエンコーダを使用して学習したニューラルネットワークに対し 人の顔、猫、人の体 に最も反応するユニットに対し、尤もらしい画像を計算する、などのことをしています。他にも色々やっていますが、それら結果を (猫などの)高次の概念の獲得、と論文中で言っているはずです。

"画像1000枚" はどこをソースにしたのか謎ですが、 論文中で使用した猫の画像は 10,000枚、猫でない画像は18,409枚、使用した並列マシンは 1,000台 (← 論文中にはここしか 1,000 という数字は存在しない) だと思います。

引用を追加しつつ、本を修正して欲しいです。もしかしたら僕が参照した論文と違っているかもしれないので。 (自分が読んだのは、2020/4/10 の再販発行版なので、既に修正されているのかもしれません。)

二点目、"今から500年後のテクノロジーは全く異なったものになっているはずだ。今から500年前を振り返ってみても、何もなかったわけだから。" (p192 より引用)、というのは、Wikipedia にも反していますし、日本の製鉄技術などをテクノロジーと見なしていない節があってあまり好きじゃないです。僕はテクノロジーが基本的に地続きの構造を取っていると思っています (時間軸に対する自己相似性がかなり高い)。

三点目、"自動車がロボットよりも難しいのは、ミスが起きると人が死んでしまうので" (p210 より引用)

令和元年の機械の巻き込みによる死傷者数は 14,592人 です。(厚生労働省, https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/tok/anst00.htm )

おわりに

MN-3 の発表おめでとうございます。これからも日本の中でもトップクラスの技術力を持つ会社として応援しています。